福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)616号 判決 1962年12月06日
理由
ところで、当事者間に第一、第二の金銭消費貸借がなされ、第一の消費貸借につき公正証書を作成する合意が成立し、借主から貸主に対し公正証書作成のために、その印鑑証明書及び借主の署名印鑑ある白地委任状が交付されたが、公正証書作成前すでにその貸金債権が弁済によつて消滅した場合は、白地委任状の交付によつてなされた貸主に対する公正証書の作成という委任の効力は消滅し、貸主は借主に対し、先に受領した委任状及び印鑑証明書を返還すべきであるから、たとえ同一当事者間に第二の消費貸借が成立したとしてもこれについて公正証書を作成することの合意が存在しない以上、貸主が先に借主から交付を受けて所持する借主の白地委任状及び印鑑証明書を利用し、第二の消費貸借と弁済期を異にし、その金額を著しく超過する金額を貸金額とする消費貸借が成立したものとして、これにつき執行証書を作成した場合は、たとえ執行証書記載の貸借成立の日時が、真実成立した第二の消費貸借のそれと同一日時であつても、右執行証書は借主の意思表示を欠く点において無効であり、真実成立した消費貸借金額(元利金)の範囲において真正に成立したものと解することはできない。この見解を前認定事実に当てはめると、甲第一号証の本件執行証書は真正に成立したものということはできないので、これが無効確認を求める控訴人の請求は、正当であるからこれを認容しなければならない。